導入事例

シリーズ9 ソーシャルビジネスでのDX活用

ソーシャルビジネスとは「地域を限定せずに、ビジネス的手法を用いて社会問題解決を目的とした事業」と言われております。ビジネス的手法とは、寄付金等だけに頼らずに「自社で事業収益を上げることで継続的な社会支援を可能にする」ことを指します。

また似ている言葉として、コミュニティビジネスがあります。こちらは「地域を限定した」活動を指すのが一般的です。

いわゆる「ボランティアの任意団体」とは一線を画していることを押さえた上で、この後の話を進めていきます。

川口市でも、市内中小企業の新たな発展モデルの構築を目指す交流会2021が昨年開催されており、地域をよりよくするための活動を担う事業者を支援しています。市では、このような活動を行う市内事業者等を「地域貢献事業者」として認定し、市内外へPRすることで事業者のイメージ向上や市内産業の活性化を目指しているとのことです。

それでは、この地域に貢献する事業=ソーシャルビジネス・コミュニティビジネスでのDX活用を考えていきましょう。

(1)ソーシャルビジネスの法人形態

ソーシャルビジネスでは、ビジネス的手法を用いて、法人として利益をあげ決算処理を実施します。特定非営利活動法人(NPO法人)の形をとることも多いです。

「特定非営利活動」とは「無報酬で働く」わけではなく、「儲かった利益を団体の構成員に分配しない=配当金等はない」ことを指します。

社会的貢献を目指しそのうえで「お客様を獲得し、利益をあげる」にあたり、一般の企業と同じようにDX推進による生産性向上・顧客満足度の向上は欠かせません。

例1:NPO法人

この記事の筆者である私も、特定非営利活動法人の副理事長を務めています。「埼玉県の中小・小規模事業者のDX推進支援」をミッションとして掲げ、組織を運営しています。

例2:合同会社

株式会社よりも緩やかな運営ができる合同会社も、ソーシャルビジネスに向いた法人形態です。

さいたま市のシゴトラボ合同会社は、シニアの生の声をいかした商品・サービス開発や、マーケティング事業、また全国各地で職場づくりやコミュニティづくりのサポートを実施しています。

今年の2月、シゴトラボではシニア向けに「スマホ活用講座」を開催し、私も講師を務めました。参加する皆さんは元気いっぱい、セミナー終了後も並んで質問してくださいます。講師の私もやりがいがあります!

(2)ソーシャルビジネス運営での問題点

ソーシャルビジネスの運営では、特定の場所に出勤して全員で一緒に仕事をするようなことはほとんどありません。しかし、通常の企業と同様にお客様のために仕事をします。

そこで組織運営上の問題点としては、以下が想定されます。

  • 組織形態にあわせた決算処理

    たとえば、NPO法人は収益事業と収益事業以外の所得を区分経理する必要があります。 *収益事業以外の所得:年会費 等
  • 遠隔地のメンバーとの情報共有・意思決定

    普段メンバーと顔を合わせて仕事をしないため、業務を円滑に進めるための環境づくりが必要です。
  • お客様を獲得するための広報宣伝活用

    社会貢献の結果として利益をあげるためには、有償の仕事を発注してくださるお客様が必要です。通常の企業と同じようにマーケティング策を実行していきます。

(3)問題点を解決するためのDX活用

これらの問題点解決には、DX活用が有効です。業務の情報等を紙に書いて代表者の自宅や事務所に置いておいても、他のメンバーは見ることができません。

こんな時こそ、クラウド活用が有効です。IDとパスワードがあれば、どこからでもログインできるクラウドサービスは、テレワークに限らず「メンバーが各所で働くソーシャルビジネス」こそ、利用が必須となります。

以下に、NPO法人運営や遠隔地の仲間との仕事で、私自身が実際に利用しているサービスをご紹介いたします。安価な価格や無料で利用でき、費用対効果は抜群です。

問題点 解決策
組織形態にあわせた会計処理 NPO法人向けクラウド会計ソフトの活用

例)会計ソフトFreee+NPO会計支援アプリと連携、年間5万円程度
遠隔地のメンバーとの情報共有・意思決定 グループウェア・チャットツール・オンライン会議の活用

例1)サイボウズ チーム応援ライセンス

年間9,900円(税抜)で、文書保管・ワークフロー等の機能が利用可能
例2)チャットワーク

年間1人6,000円(税抜)でビジネスプラン契約、書類・写真等の添付ファイル検索が便利、スマホで手軽にやり取りができる
例3)ZOOM

年間約12,000円で利用できる「プロ」契約で100人まで同時にオンライン会議が可能であり、コロナ禍のビジネスでは必須
広報宣伝活用 無料・安価なSNSやWEBサイト活用

例)アメーバブログ

アメーバサービスの一環として読者が集めやすく、かつ無料で利用できる。

NPO法人ねこけん:動物保護団体、寄付を募りながらもオリジナルのマグカップ・Tシャツ等を販売する収益活動を実施している

(4)ソーシャルビジネスでも補助金を活用できる

昨今、経済産業省の補助金につき、一部でNPO法人や社会福祉法人など、いわゆる「株式会社でない法人」でも利用可能になりました。

特に、IT導入補助金は、会計ソフト導入やECサイト構築等で利用できますのでお勧めです。小規模事業者(サービス業の場合、従業員5人以下等)であれば、販売促進費用として小規模事業者持続化補助金が利用できます。

その他、補助金活用についてご質問があれば、川口商工会議所までお問い合わせください。

(5)ソーシャルビジネスでDXを運用するのは誰か?

ただ、ここで問題になるのは、この解決策を誰が実行するか?です。DXはツールを入れるだけでは動きません。運用ルールを決め、誰かが責任者となる必要があります。

通常、NPO法人では、スタッフに固定の給料を用意しないケースが多く、業務に必要なDX運用の引き受け手がいない場合があります。

ですが、経理担当・WEBサイト更新担当など、ソーシャルビジネスの重要なポイントを支えるスタッフには、年間数万円程度であっても些少のフィーを支給しましょう。

ソーシャルビジネスは、ボランティアの任意団体とはまったく異なります。地域貢献により収益をあげ納税するという「法人格をもった団体」です。通常の会社と同じように、会社運営の根幹となる業務をないがしろにせず、重要業務は担当者を決めて運営していきましょう。

(6)まとめ

ソーシャルビジネスは、少子高齢化・貧困・動物保護などの「社会問題」、DX推進など「自治体・民間企業・学校等の日本全体で取り組むべき問題」を支えるために、今の我が国にとって必要不可欠です。

民間の中で特定分野の知識・経験に秀でた人が、社会に貢献するにあたって、ぜひソーシャルビジネスの形態を上手に活用していただきたいと願います。

その際、今回ご紹介したITツールを適切に利用して、ソーシャルビジネスに関わるみなさんの業務がより円滑に進むことを願ってやみません。

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